飲食業・クリエイターの方へ

税理士法人ファリスの「開業・会社設立相談所」では、確定申告を控えており、売り上げが1000万円を超えそうな個人事業主様が慌てて相談にいらっしゃることがよくあります。その中で、もっとも多い質問が2つあります。

「何か手続きが必要ですよね?」
「法人化しないといけませんか?」

それらの質問には、「消費税」が関係しています。消費税について説明しながら、売り上げが1000万円を超えたらしなければいけない手続きと法人化する必要があるかについて解説したいと思います。

事業者は、お客様からお預かりした消費税を国に納めなけれがいけません。しかし、全ての事業者が消費税を納めるわけではなく、個人事業主の場合には1月から12月まで、法人の場合には決算から次の決算までの一事業年度の売り上げの合計金額が1000万円未満の場合は、納税が免除されます。

そのため、売り上げが少ないうちは消費税について意識せずに事業を行なってきた個人事業主様も売り上げ1000万円以上が見えてきたときに「どうしよう」と思うのです。

ただ、消費税は、売り上げが1000万円を超えた年にすぐに納税しなければいけないのではなく、売り上げ1000万円を超えた2年後に、その年(2年後の年)の売り上げから計算して支払います。

(※資本金が1000万円以上の場合や、年度の始めから6ヶ月経過した時点で、すでに売り上げが1000万円を超えている場合は、2年を待たずに消費税の支払いが発生する、など例外があります)

そのため、例えば、確定申告も迫った状況で初めて1000万円を超えそうだということがわかり、慌てて消費税の計算をする必要はありません。しかし、2年後の年には、たとえ、その年の売り上げが1000万円に満たない場合でも消費税が徴収されますので、消費税分も含めた会計をし、備える必要があります。

では、「売り上げ1000万円超えたからといっても2年後まで何もしなくても大丈夫だ」と思っていいのでしょうか?

実は、売り上げ1000万円超えたら、しなければいけない手続きがあります。税務署に『消費税課税事業者届出書』を速やかに提出する必要があるのです。国税庁のホームページからダウンロードも可能な届出書ですので、手続きそのものは難しくはありません。

注意しなければいけない点は、『消費税課税事業者届出書』以外に、『消費税課税事業者選択届出書』という届出書もあることです。書類や記入内容を間違えて提出してしまうと2年を待たずに消費税を納税しなければいけなくなってしまう可能性もあります。そのようにならないために、提出前に一度、税理士に相談いただくのも一つの手かもしれません。

POINT
  • 売り上げが1000万円を超えたら税務署に『消費税課税事業者届出書』を提出しましょう。
  • 売り上げが1000万円を超えたからといって、その年に慌てて消費税の申告と支払いを行う必要があるわけではありません。

個人事業主として活躍している方が法人化を考えるタイミングは、事業の拡大、従業員の雇用などが考えられますが、「払う税金が少なくてすむらしい」という理由で法人化を検討される場合もあります。

「利益が500万円以上の場合は法人化をした方がお得」
「売り上げ1000万円を超えたら法人化した方がいい」

という話を聞いたことはありませんか?所得税や消費税が関係しているらしいところまではわかるのですが、ただ、なんでそう言われているのかはわからず、「今年の売り上げが1000万円を超えたけど、法人化しないといけないのか?」という相談をされる方は、よくいらっしゃいます。

利益が500万円以上の場合は法人化をした方がお得?

「利益が500万円以上の場合は法人化をした方がお得」という話は、個人と法人の税率の違いにより法人の方が税率が低くなるケースがあるために言われているものです。その分岐点がだいたい「事業所得(利益)が500万円以上」だと書いてある記事などもあります。しかし、所得控除は人によって違いますし、税率も会社の規模や利益の金額で変わります。そのため、モデルで書かれているケースが自分に当てはまらない可能性が高いです。

また、会社に係る税率は、法人税の他に、地方法人税、法人事業税、法人住民税までを含めた実効税率で考える必要がありますので、所得税との単純な税率比較は難しいはずです。事業所得が多い場合、法人化した方が税率が低くなる可能性があるとだけ覚えていただき、具体的な数字は税理士にご相談ください。

売り上げ1000万円を超えたら法人化した方がいい?

「売り上げ1000万円を超えたら法人化した方がいい」という話は、消費税と関係しています。先ほど書かせていただいた免税期間が関係しています。法人化した場合、法人に対しても、課税対象になって、実際に納税が始まるまで免税期間は同じように発生します。そのため、個人事業主のとき1000万円の売り上げを超え、消費税の課税が始まるまでの期間内に法人化した場合、免税期間を伸長させることができるとも言えるのです。ただし、前述したように例外がありますし、免税期間後からは支払いが開始される点は注意が必要です。

「開業・会社設立相談所」の無料相談のお客様の中には、その前にも、様々な場所で起業相談を受けてこられた方もいらっしゃいます。「利益が500万円以上の場合は法人化をした方がお得」「売り上げ1000万円を超えたら法人化した方がいい」という理由で簡単に「法人化してもいいのでは?」と説明をしているところも多いそうです。

税理士法人ファリスでは、売り上げや利益、税制面でのメリットだけで単純に法人化を勧めることはしません。所得、従業員の有無、社会保険の考え方、今後の事業展開なども含めて検討し、判断してほしいと思います。

POINT

一定以上の売り上げや利益がある場合は、法人化をした方が、税制面でのメリットがある場合がありますが、法人化をするかどうかは、その他の要素も踏まえてじっくり検討してみる必要があります。

個人事業主といっても様々な方がいらっしゃいます。飲食店や美容室を経営していたり、イラストレーターやデザイナー、プログラマーなどクリエイターとしてフリーランスで活躍している方もいます。そして、職人的に仕事を楽しんでいきたい方、将来は積極的に雇用をしていきたい方…など、理想のワークスタイルや将来の夢も違います。

そのため、「個人事業主でいくか、法人化をするか」を判断する場合、同じ条件でもメリットと捉えるかデメリットと捉えるかは人によって違うことが多いのです。ですので、単純に500万円以上の利益だから法人…などと考える必要はありません。

個人の収入と資金繰りの面において、個人事業主派と法人派の考え方をお伝えします。どちらの考え方がしっくり来るかを読んで、判断材料にしてみてください。

個人の収入

個人事業主派

個人の場合は、売り上げから経費や社会保険などを抜いた利益が自分の収入になります。しかし、法人の場合、経営者は、年に一度、役員報酬を定めたら、その金額しか収入になりません。そのため、「今月は思ったより利益があったから旅行にいくぞ!」「前から欲しかった時計を買おう」などと売り上げの高かった月の利益を私用で使うことができないのです。自分の稼いだお金が単純に自分のものにならない歯痒さを感じてしまう場合は、個人事業主の方がしっくりくるかもしれません。

法人派

役員報酬のおかげで守られる部分もあります。法人の場合は、所得税、住民税、社会保険料などを控除した決まった収入が手元に入りますが、個人事業主の場合は、納税を不定期で行うので、資金繰り(資金管理)が難しくなります。

個人事業主で思ったより多くの利益を上げた次の年は、その年の売り上げが少なくても、所得税の予定納税(7月、11月)、住民税、個人事業税、国民健康保険料などが高くなります。役員報酬で決まった金額をもらっている場合は、個人で支払う税金や社会保険料は想定した金額で済みますので、利益が多かった次の年の支払いに苦労することはありません。

また、給与所得控除という控除を受けることができるので、個人事業主よりも法人化した方が個人が支払う税金は少なくすむ場合が多いです。

資金繰り

個人事業主派

法人化したら、個人の支払う税金は少なくてすむとしても、法人として支払う法人税等があります。それは、どれだけ売り上げが少なくても年間最低7万円(資本金1千万円以下、従業員50人以下の場合の法人住民税の均等割)発生します。また、毎月、役員報酬や従業員の給料に応じた社会保険料の会社負担があります。法人は、何もしなくても最低限かかる金額が個人事業主より高くなってしまう傾向にあります。そのため、支払いに困らないように、現金を用意しておくため、借り入れをするなどの資金繰りが必要になる可能性が高くなります。今までマイペースに仕事を行なっていた個人事業主が法人化すると「まるで、税金や社会保険のために仕事をしているみたいだ」と後悔する場合もあります。マイペースに仕事を楽しみたい場合は、法人よりも個人事業主を選択した方が良いでしょう。

法人派

法人は個人事業主にくらべて好条件で融資を受けることができる可能性がありますので、借り入れや融資なども積極的に利用しながら事業を継続させることができます。事前の設備投資が必要な仕事にチャレンジしたり、チームを組んで大きな仕事を受けたり、事業拡大を計画する場合などは、法人化した方が圧倒的に有利です。

POINT

考え方によって、法人化をメリットと捉えるかデメリットと捉えるかは違います。

飲食業・クリエイターの方へ

税理士法人ファリスに相談にいらっしゃるお客様のなかにも、法人化した方が税制面でのメリットがあったとしても、個人事業主としての活動を選択する方もいらっしゃいます。

とは言っても、売り上げが1000万円を超えてくると、日々の売り上げの管理や、消費税も含めた記帳などに不安を覚える場合もあります。なぜなら、消費税の計算はちょっと複雑で、事業者は、お客様から受け取った消費税をそのまま、国に納めている訳ではないからです。

ケーキ屋さんを例にしてみます。ケーキ屋さんは、材料の卵や小麦粉を仕入れる場合、その材料に対して消費税を支払っています。そして、お客様から、消費税をお預かりします。その後、お客様から受け取った消費税から材料費などの経費で既に払っている消費税を引いた金額を計算して、消費税として国に納めるのです。

税理士法人ファリスでは、個人事業主の方であっても、顧問契約だけでなく、「経理・記帳代行」サービスなど、様々なサービスを利用できます。「消費税の計算や申告ができるか不安だ…」などの悩みがある場合もお気軽にご相談ください。

では、法人化を選択したとして、法人化に最適なタイミングはあるのでしょうか?

個人事業主として活動していた時期の売り上げは個人事業主として申告しなければいけません。そのため、期の途中で起業した場合、個人としての申告と法人としての申告をする必要があります。手続きを簡単にするためには、個人事業主として一期が終わった次の期から法人化をする方がいいでしょう。

しかし、65万円の青色申告特別控除を受けている方が、その控除を受けるため、あえて期の途中で法人化して、個人事業主としての申告も行う場合もあります。

消費税の免税期間を伸長したい場合は、免税期間内ギリギリの時期に法人化するといいでしょう。

3つのケースを書かせていただきましたが、考え方によって、法人化に最適なタイミングはそれぞれ違います。ご自身の考え方や事業の状況なども踏まえて法人化の手続きを行なってください。

税理士法人ファリスでは、無料相談の中で、「法人化シミュレーション」というサービスも行なっています。仮に法人化した場合、税金面でどのような変化があるか給与所得控除などの計算を行います。法人化の判断材料にしてみてください。

  • ※専門用語などをあえて省き、平易な文章で書かせていただいている部分があります。
  • ※税制や税率は令和元年の時点のものです。